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Review
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Exhibition Review
中村 裕太 展「めがねや主人のペンキ塗り」【開催を終えての再考論評】

2009年10月7日(水)~10月25日(日) 1F main gallery + 2F salon
文 / 小金 沢智 (neutron tokyo) 写真 / 廣瀬 育子

「経済や実用の点からは、タイルの方が万々優っていることは云うまでもない。たゞ、天井、柱、羽目板等に結構な日本材を使った場合、一部分をあのケバケバしいタイルにしては、いかにも全体としての映りが悪い。」

  

小説家の谷崎潤一郎(1886-1965)は「経済往来」(昭和八年十二月号・昭和九年一月号)に発表した『陰影礼賛』の中で、「タイル」について以上の ような考えを述べている。しかし明治十九年生まれの谷崎とは異なり、明治以来の急速な日本の西洋化を実感としてではなく歴史としてしか知らない私にとっ て、タイルは必ずしも「ケバケバしい」がゆえに忌避すべき対象ではなく、むしろ古き日本と結びついている。したがって、谷崎が好まなかったタイルの一つ一 つに一文字ずつ文字を焼き付け、『陰影礼賛』の上記を含むまとまりを文章化して床に敷いた中村裕太の作品《豆腐と油揚げ》(タイル、 7480×3320×5mm、2009年)が映し出しているのは、『陰影礼賛』から70余年が経つ現在の日本の景と捉えることができるだろう。

  

2009年5月にneutron kyotoで発表した《豆腐と油揚げ》と、2007年に同所で発表した《NOW NO SWIMS ON MON》(タイル、7480×3320×10mm、2007年)の二点に新たに手を加え、組み合わせたインスタレーションが今回の《めがねや主人のペンキ 塗り》(タイル、2009年)である。ある状態に手を加えることで別の状態へと変化させることの喩えとして、過去の作品を再構成するという今回の試みの暗 喩として「ペンキ塗り」という言葉を認識することが可能だが、中村のステイトメントにある「めがねや主人のペンキ塗り」の描写はそもそも、実際に中村が遭 遇した光景である。そして店舗を住宅として使おうとペンキを塗っている「めがねや主人」の行為はそのまま、住宅を店舗として使用している当ギャラリーの性 質を照射する。コンクリート製の一階の床に敷き詰められたタイルは中庭まで及び、「漢字」部分を抜き出して「ひらがな」だけとなった《豆腐と油揚げ》は文 章から意味性が大幅に剥ぎ取られることで、比較的鮮やかだった色彩の《NOW NO SWIMS ON MON》は再び白い釉薬を重ねられ焼き上げられることで、それぞれ印象が異なりながらもタイルの物質性を増幅させていた。それは中村の、タイルという基本 的に建築に付随するものを使いながら、建築に依存しすぎず作品としての強度を手に入れるための方法だったのかもしれない。

 

 

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